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2017/01/09

再生可能エネルギーの発電コストが下がり、買取制度から自家消費へ

スマートジャパン1/5(木) 7:25配信

固定価格買取制度(FIT)が始まって4年が経過するあいだに、再生可能エネルギーの導入量は順調に伸びてきた。この間に運転を開始した発電設備の規模は3000万kW(キロワット)を超えた。大型の原子力発電所30基分を上回り、国内の電力源として大きな役割を担い始めている。

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再生可能エネルギーによる電力の供給量は増え続けて、2015年度には国全体の4.7%まで拡大した。従来の水力発電と合わせると14.3%になり、2020年度には20%を超える勢いだ。今後も原子力を上回る規模の電力を供給していく。

 政府が2030年度の目標に掲げるエネルギーミックスでは、CO2(二酸化炭素)を排出しない再生可能エネルギーと原子力で44%まで高める計画だ。いまや再生可能エネルギーだけで30%以上を供給できる状況が見えてきた。原子力の再稼働が目標どおりに進まなくても、電力の供給量とCO2の削減量に支障は生じない。

 これまで再生可能エネルギーの問題点に挙げられてきた2つの課題がある。1つは天候によって発電量が変動すること、もう1つは発電コストが高いことだ。発電量の変動を解決する手段はいろいろある。地域間で需要と供給を調整するほかに、企業や家庭で自家消費を増やしていく。

 FITの買取価格が電気料金を下回る水準になると、売電よりも自家消費のメリットのほうが高くなる。再生可能エネルギーで作った電力を自家消費して、電気料金を安く済ませるようになる日は遠くない。国全体で買取費用の拡大を防ぎ、電気料金に上乗せする賦課金の上昇を抑える必要がある。

 政府は再生可能エネルギーの拡大策を2017年度に大きく転換する。これまで買取制度に依存して導入量を伸ばしてきた状態から、自家消費や地産地消による「自立できる再生可能エネルギー」を目指す。そこで最も重要な対策が発電コストの低減だ。

 日本では再生可能エネルギーの発電コストが海外と比べて2倍近い水準にある。国土が狭くて土地代が高い問題はあるものの、いまだ市場が未成熟で競争が少なく、その一方で流通経路が複雑な構造になっていてコストの増加を招いている。こうした問題を解決していけば、発電コストを大幅に下げることは十分に可能だ。

 太陽光発電と風力発電のコストに対して政府の目標値がある。事業用(非住宅用)の太陽光発電のコストを2020年に14円/kWh(キロワット時)へ、さらに2030年に7円/kWhまで引き下げる。14円は企業向けの電気料金の単価と同じ水準になり、7円になると原子力や石炭火力の発電コストよりも安くなる。

 同様に住宅用の太陽光発電のコストも低下させて、2019年には売電価格を家庭向け電気料金の単価と同程度の24円/kWhまで引き下げる。さらに2020年代の早期に売電価格を11円/kWhまで下げることで、卸電力市場で取り引きする電力の単価と同等にする。

 すでに海外では太陽光発電による電力の取引価格が6円/kWhを切るケースも出始めている。太陽光をはじめ再生可能エネルギーの電力は、バイオマスを除けば燃料費がかからないからだ。発電設備を長期に運転すれば、安い単価で電力を供給しても採算がとれる。日本でも2017年度に改正するFITの新制度を通じて、発電コストの低減にはずみがつく。

太陽光の買取価格がまもなく20円を切る

 太陽光発電の買取価格は2017年度に事業用が21円になり、FITを開始した当初の40円から5年間で半分の水準まで下がる。加えて発電能力が2000kW以上の大規模な発電設備には入札方式を導入して、21円以下の買取価格で取り引きする。もはや20円を切るのは時間の問題だ。

 住宅用の太陽光発電の買取価格についても、3年後の2019年度に24円まで引き下げることが決まった。政府が太陽光発電のコスト目標に掲げた家庭向け電気料金の水準と同じだ。2020年代には電力を買うよりも太陽光発電で自家消費するほうが安く済む。住宅に太陽光発電を導入するインセンティブが再び大きくなっていく。

 太陽光発電の導入コストの多くを占めるのは太陽光パネルだ。このところパネルの価格低下が進んだことで、「過積載」の太陽光発電設備が増えてきた。発電した電力を送配電ネットワークに供給するためにはパワーコンディショナー(パワコン)が必要になる。パワコンの容量に対して100%を超える出力のパネルを設置する場合を過積載と呼んでいる。

 太陽光パネルの出力は日中に最大になり、朝や夕方には低下する。日中に発電した電力がパワコンの容量を超えて余剰になっても、数多く設置した太陽光パネルで朝や夕方の発電量を増やすことができれば、1日の総発電量は多くなる。それだけ売電収入が増えて、パネルの導入コストを上回る状況になってきたわけだ。

 過積載が進んだ結果、太陽光発電の設備利用率(発電能力に対する発電量の割合)は年々上昇している。発電能力が1000kW以上の実績値を見ると、2015年7月〜2016年6月に運転を開始したケースでは設備利用率が15.1%になっている。1年前と比べて0.5ポイント高い。さらに2000kW以上の発電設備では16.3%に上昇する。

 FITが始まった2012年度の時点の太陽光発電の設備利用率は12%を想定していた。当時の設備と比べて年間の発電量が25%以上も増えている。国土の狭い日本でも、土地を有効に利用して太陽光の発電量を拡大できる方法が広がってきた。

 その1つが農地を活用した営農型の太陽光発電だ。農地に支柱を立てて高い位置に太陽光パネルを設置したうえで、パネルの下では農作物も栽培する。太陽光を発電と農業の両方に利用することから「ソーラーシェアリング」と呼んでいる。全国各地に荒廃する農地が増えている中で、発電と農業による収入の増加を農地の再生につなげていく。

 最近では一般の農家が運営する小規模なソーラーシェアリングに加えて、企業による大規模な導入事例も増えてきた。典型的なプロジェクトが鳥取県の日本海側にある北栄町(ほくえいちょう)で始まっている。面積が1万8000平方メートルある農地に、4200枚の太陽光パネルを設置して2015年11月に運転を開始した。発電能力は1000kWで、現在のところ国内最大の営農型による太陽光発電設備だ。

 年間に105万kWhの電力を供給して、4200万円の売電収入を見込んでいる。太陽光パネルの下では、ビルの屋上緑化などに使う「常緑キリンソウ」を栽培して販売する。農作物の収入は売電と比べると小さいが、農地を活用して再生可能エネルギーを増やす効果は大きい。

風力発電のコストも電気料金に近づく

 日本では太陽光発電の導入量が圧倒的に多いが、海外では風力発電が再生可能エネルギーの主流になっている。導入量の増加に伴って発電コストが低下して、2016年には全世界の平均で8.8円/kWhまで下がった。最新の事例では3円/kWhを切るケースもある。

 これに対して日本の風力発電の平均コストは13.9円/kWhと高く、海外の1.6倍の水準だ。政府は太陽光発電と同様に風力発電のコスト低減を進めて、2030年までに現在の海外の平均値と同等の8〜9円/kWhを目指す。実現できれば原子力や石炭火力の発電コストよりも低くなって導入にはずみがつく。

 風力発電でも設備利用率が高くなってきた。従来は標準で20%を想定していたが、直近の実績値では24.8%まで上昇している。同じ能力の設備でも年間の発電量が2割以上も増える。これを前提に風力発電の買取価格は3年後の2019年度に19円まで引き下げる予定だ。既設の発電設備をリプレースした場合には16円になる。買取価格が企業向け電気料金の水準(14円/kWh)に近づいていく。

 ただし風力発電には騒音や動植物に対する影響の問題がある。人家の近くや鳥類の生息地には建設しにくい。その点で将来に向けて導入量の拡大を期待できるのは洋上風力だ。工業地帯にある港湾区域や沖合の一般海域でも洋上風力発電の導入プロジェクトが増えてきた。

 現在のところ発電設備を海底に固定する「着床式」を採用する事例が多いが、日本の近海には遠浅の部分が少ないために、着床式で建設できる海域は限られている。今後は洋上の発電設備をアンカーチェーンで安定させる「浮体式」が増えていく。

 浮体式の洋上風力発電で世界最大級の実証設備が、福島県の沖合20キロメートルの海域で運転中だ。3基の大型風車と1基の変電設備から海底ケーブルで陸上まで電力を供給する。発電能力は合計で1万4000kWに達して、一般家庭の1万世帯分に相当する電力を洋上で作ることができる。

 この実証設備で導入効果を確認できれば、浮体式による洋上風力発電の開発プロジェクトが全国に広がっていく。導入事例の増加に伴って発電コストは下がる。2030年代には陸上風力よりも洋上風力の導入プロジェクトのほうが多くなる見通しだ。

バイオマスに続いて中小水力と地熱発電も

 5種類ある再生可能エネルギーの発電設備の中で、太陽光の次に導入量が増えてきたのはバイオマス発電だ。すでに280万kWにのぼるバイオマス発電設備が運転を開始したほか、運転開始前の認定設備を加えると500万kWを超えている。現時点で運転中のバイオマス発電設備は生ごみなどの一般廃棄物を燃料に利用するものが多い。

 今後は全国各地の森林にある間伐材を活用した木質バイオマス発電に加えて、海外から輸入するパームヤシ殻などの農作物残さを利用する発電設備が増えていく。パームヤシ殻はヤシの実から油を抽出した後の殻の部分を乾燥させて砕いた木質バイオマスの一種で、東南アジアから安く大量に調達できるメリットがある。

 パームヤシ殻を燃料に利用した場合の買取価格は、現在のところ事業用の太陽光発電と同じ24円だ。ただし発電能力が2000kW以上になると、2017〜2019年度に認定を受けた場合には21円に下がる。それでも通常の火力発電のコストと比べて高いが、生物由来の燃料を使ってCO2の排出量を削減できる価値がある。

 バイオマス発電に続いて中小水力発電の導入量も着実に伸びている。ダムの直下に発電所を建設して放流水を利用する方式のほか、農業用水路や水道管に小規模な発電設備を導入する事例が増えてきた。

 最近では古い水力発電所をリニューアルして発電量を増加させるプロジェクトが各地で始まっている。典型的な例は島根県の企業局が運営する6カ所の水力発電所のリニューアルだ。運転開始から40年以上を経過した水力発電所を対象に、老朽化した設備の更新を進めている。

 リニューアルしても発電に利用できる水量や落差は従来と変わらないが、設備を更新することで稼働時間が長くなって発電量が増える。合わせてFITの認定を受ければ、高い買取価格で売電できるようになる。既設の導水路をそのまま活用して発電設備を更新した場合には、買取価格は12〜25円の範囲だ。すでに火力発電の水準に近づいている。

 再生可能エネルギーの拡大に向けて、残る課題は地熱発電だ。日本には世界で第3位の地熱資源量がありながらも導入量は少ない。FITの対象になっている地熱発電設備を合計しても1万kW程度にとどまっている。地熱資源の豊富な火山地帯が自然公園に指定されていて、発電設備の建設に厳しい制限があるからだ。温泉地では地元が反対するケースも少なくない。

 そうした中で温泉地を活性化するために地熱発電所の建設に乗り出す地域が出てきた。阿蘇山の北側にある熊本県の小国町(おぐにまち)では、地元の住民が地熱発電所の建設を推進した。再生可能エネルギーを生かした町づくりで観光客を呼び込み、新たな雇用を創出する狙いもある。

 同様の取り組みは全国の温泉地に広がり始めている。地熱発電の排熱をビニールハウスに供給して野菜や果物の栽培に利用する例も増えてきた。再生可能エネルギーの電力と熱を地産地消しながら、地域の農業や観光業を盛り上げる試みだ。

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